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COLUMN

ふくしまの酒 STYLE04

ふくしまの酒×
燗酒

さまざまな温度帯で楽しめるのも、日本酒の魅力のひとつです。冷酒の美味しさはもちろんのこと、燗酒も、そのお酒のもつ多様で複雑な味わいを引き出してくれます。今回は、燗酒の楽しみ方から、燗に向いた福島のお酒の選び方まで、ふたりの“燗酒達人”ともいうべき、髙崎丈さんと鈴木賢二さんに聞きました。

髙崎丈(たかさき じょう)

熱燗師。1981年、福島県双葉町生まれ。実家は双葉町にあった洋食屋「キッチンたかさき」を営んでいた。東京で料理の修業をしたのち、双葉町に居酒屋「JOE’S MAN」を開業したが、東日本大震災で閉店。2021年12月、“最高のお燗”を提供したいとの思いから東京・目黒区に「髙崎のおかん」をオープンした。

「髙崎のおかん」外観(上)と、内観(下)

“燗酒の未来性”に
人生を賭けた

2021年12月、東京・目黒区に誕生した「髙崎のおかん」は、知る人ぞ知る燗酒の名店。 “熱燗師”こと、髙崎丈さんが繰り出す燗酒×料理のペアリングが、日本酒ファンのみならず料理専門誌などでも熱い注目を集めている。 髙崎さんのルーツは、福島県双葉町。故郷に開業した居酒屋「JOE’S MAN」が東日本大震災により閉店を余儀なくされ、2014年、東京・三軒茶屋に「JOE’SMAN 2号」を開業した。そこで評判となった燗酒のさらなる魅力を伝えるべく、提供スタイルを進化させてオープンしたのが「髙崎のおかん」だ。 「震災後、東京に店を出してがむしゃらに働くなかで考えました。これからどうすれば生き残れるのだろうか。自分の価値とは、オリジナリティとは何か。そこを突きつめて考えたときに見えたのが、燗酒の未来性でした」

  1. カウンターには、60℃と90℃の2つの燗床(湯煎をするための器)。もっとも熱伝導率がよく、キレが増すという銅のちろりほか、5種の酒器で燗をつける。「調理にたとえると銅は “焼き”。錫は“煮込み”、ビーカーは“蒸し”、ステンレスのデキャンタージュ容器は“揚げ物”、チタンは“薪料理”と、それぞれの酒器で調理をイメージして燗をつけています」

    燗酒は、体にやさしい

    髙崎さんによると、燗酒の大きな魅力は体へのやさしさ。温めることで体内でのアルコール分解が進みやすくなり、二日酔いになる心配もほとんどないという。
    「お酒を飲むと、体温と同じくらいの温度でアルコール分解が始まるそうです。つまり、冷酒に比べて燗酒のほうが分解されやすく、翌朝の目覚めもすっきりします」

    もう一つは味覚。人間の舌は冷たいものほど味を感じづらく、30〜40度の温度帯から味を美味しく感じやすくなる。日本酒も燗酒にすることで味わいが増し、料理とのペアリングの幅が広がるという。
    「そもそも冷酒を楽しむ文化は、冷蔵技術が発達した現代のもの。本来、日本酒は温めて飲むものでした。さらにいうと昔の米は、身近な有機物を循環させて栽培する無農薬栽培が当然でした。そうした米は糠までおいしいんです。だから自然農法など無農薬栽培米で造られた酒は、糠を削る必要があまりなく、いやな雑味がまったくありません。温めることでそのナチュラルなおいしさがふくらみます」

  2. 「しぜんしゅ めろん3.33」(福島県郡山市・仁井田本家)ベルガモット燗58℃×マツカワガレイの刺身
    チタンのちろりで温め、仕上げに国産ベルガモットの皮を落として香りをつける。「温めたお酒が刺身の油分を溶かし、うまみを増幅させます。ベルガモットの香りが爽やかです」

    「水を編むーアグリロードー」(福島県南相馬市・haccoba)53℃×ナメタガレイのわら焼き
    繊細できれいな酒質が、ナメタガレイの淡泊な味わいと同調。仕上げに自家製からすみをたっぷりふりかける。「からすみのうまみは日本酒との相性がとてもいいんですよ。わらのスモーキーな香りが加わります」

    「黄金蜜酒」(山形県長井市・鈴木酒造店)68℃×茶碗蒸し
    「黄金蜜酒」は、クリアで洗練された味わいの本みりん。ホンビノス貝と豆乳の茶碗蒸しをひと口味わってから飲むと、口のなかでキャラメルプリンのような風味に。「途中でミルクの泡をのせると、糖度の高い本みりんを最後までおいしく楽しんでいただけます。このペアリングが髙崎のおかんの定番の“オチ”です」

    燗酒を飲むと “土壌”が見えてくる

    燗酒に向く日本酒の酒質とは、どのようなものだろうか。髙崎さんは香りや味わいはもとより、何よりも“土壌”を重視しているという。
    「日本酒の原料となる酒米は、山田錦や雄町などの有名な品種があります。しかし、僕が燗酒のための日本酒を選ぶときに、いちばん重要だと考えているのは品種よりも土壌です。なぜなら日本酒は温めることによって、酒米の素性、土壌までもが明らかになると思っているからです」

    また、燗酒と料理のペアリングで重視しているのは、生産者の“思想”。同じ方向を追求する生産者たちが表現したいことを、温度によってひもづけたいと髙崎さんは続ける。
    「うちの店では自然米100%で純米酒のみを醸す仁井田本家など、健やかな土壌で育った米の酒を中心にそろえているので、食材の農産物も自然栽培や有機栽培のものが中心となっています。健全な農と食の価値を伝え、その評価をより高めていくことが、飲食店の役割であり、僕はそれを燗酒で表現したいと考えています」

  3. 名称
    髙崎のおかん
    住所
    目黒区青葉台3-10-11 青葉台フラッツ1F
    営業時間
    ○完全予約制 2部制
    ○定休日 日曜日(イベントや出張で変更あり)
    ○営業時間 ❶部【18:00】一斉スタート
    ❷部【20:45】一斉スタート
    (door open ❶17:45〜❷20:40)
    公式サイトへ
  4. “日本酒の神様”鈴木賢二さんに聞く、
    「燗酒のススメ」。

    鈴木賢二(すずき けんじ)

    福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの元副所長。現在は退官し、福島県酒造組合の特別顧問。独自の「福島流吟醸酒製造マニュアル」を作成、県の酒質向上に貢献し、全国新酒鑑評会での福島県金賞受賞数9回連続日本一の立役者となった。

    燗酒にすると、香りとうまみが増す

    日本酒は温めると香りが広がり、うまみがふくらみます。これは人間の舌が、体温に近いものほど「甘味」を感じやすいから。逆に、苦味や渋味は温めると感じづらくなります。つまり燗酒にすると、日本酒に含まれる苦みや渋みが消え、辛口酒でもふわりとした柔らかい味わいになります。一方、アミノ酸豊富な酒は、冷酒だとちょっとくどく感じるものですが、燗酒にするとそのくどさが「うまみ」として感じられ、すっきりとやさしい飲み口になります。
    また、二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドは、アルコールよりも沸点が低いので、燗酒にすることでその多くが抜けます。つまり、体への負担が少なく、酔い覚めがすっきりするのも燗酒の魅力ですね。

    燗酒に向く日本酒とは

    基本的にオーソドックスな純米酒が、燗酒に向いています。大七酒造(二本松市)の「純米生酛」、末廣酒造(会津若松市)の「伝承山廃純米」、檜物屋酒造店(二本松市)の「甑峯(こしきみね) 特別純米酒、鈴木酒造店(浪江町)の「磐城壽 赤銅(アカガネ) 熟成純米などは、間違いなく燗酒向き。生酛造りや山廃造り、熟成した純米酒のおいしさは、温めてこそのものです。
    一方、「大吟醸酒などの高級酒は燗酒に向かない」という従来のイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。香り高い酒ならぜひ40~45℃のぬる燗を試してみてください。温めることでうまみが引き出され、香りもそのまま楽しめます。

    燗酒に向かない酒もある

    また、燗酒向きのお酒選びで重要なのが、雑味がないことです。ここでいう雑味とは、製造工程の道具などからつく“濾過グセ”などの欠点。こうした要素は温めたとたんに、その存在が浮き彫りになります。燗酒は、蔵の日々の清掃や技術レベルをも如実に語るのです。
    ちなみに燗酒にすると、急に香りが変化して好ましくない味になるタイプの日本酒もあります。ひとつはジアセチル臭といい、ヨーグルトのような香りをもつ酒。もうひとつは、生独特の香りが強い生酒。これら2つのタイプの酒は、燗にすると不快なにおいが出やすいので、冷酒がおすすめです。

    福島の郷土食・ニシンの山椒漬けも熟成酒の燗酒にピッタリ

    平杯と肴でおいしさが増す

    燗酒を楽しむなら、酒器は薄手の平杯がおすすめです。薄く広がった形状は舌にのりやすく、うまみと香りがよく広がります。また、平杯を少し傾ければ、クイッと飲めるのでラクです。
    燗酒に合う熟成酒は生臭みをうまく消してくれるので、煮魚や蒲焼き等と組み合わせると絶品です。たとえば福島県の郷土食、鯉のうま煮やニシンの山椒漬けは、熟成酒の燗酒にぴったり。ちなみにわさびをちょっとつけて味わう鰻の白焼きと燗酒は、私にとって最高の組み合わせ。これを“人生最後の晩餐”にしたいと思っています(笑)。