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NEW WAVE 03 U40 NEXT GENERATION

松崎酒造 松崎祐行

スタンダードな酒造りを続けたい

松崎祐行(蔵元杜氏)

1985年生まれ。2009年入社、2011年より杜氏。福島県新酒鑑評会の吟醸・純米酒部門では1年目にして金賞を受賞。

震災をきっかけに
26歳で杜氏に

福島県南部に位置する、人口約5400人の自然豊かな村、天栄村。この地で1892(明治25)年から酒造りを続ける松崎酒造の6代目杜氏・松崎祐行(まつざき ひろゆき)さんは、26歳で蔵人としてスタートした矢先、東日本大震災に見舞われた。
震災直後、長年、岩手から酒造りのために蔵に来ていた南部杜氏が病に倒れ、酒造りを続けることが困難に。「それまで私は一蔵人として濾過の行程に関わるくらいで、酒造り自体にはタッチしていませんでしたが、これを機に杜氏になる決心をしました。県の清酒アカデミー職業能力開発校で酒造りを学び、酒質や製造量など、これまでの酒造りを大幅に見直すことにしたのです」。自分がこの蔵をなんとかしなければ……そんな思いが、若き祐行さんを突き動かしたのだ。
松崎酒造はおもに地元向けの普通酒を造ってきたが、祐行さんが杜氏になった翌年の2012年、初めて仕込んだ「廣戸川 大吟醸」が全国新酒鑑評会で金賞を受賞する快挙を成し遂げた。
「この時は仕込み量も少なく、1本1本に注げるだけの情熱を注ぎ込み、前のめりに造っていたので、金賞受賞は励みになりました。パートの従業員も泣いてよろこんでくれましたね。でも、達成感はほんの一瞬で、来年はもっとこうしようとか、そのために設備を新しくしようとか、気持ちは次に向かっていました」

つねに進化し続ける
スタンダード

金賞に輝いた大吟醸の技を生かして造られた、定番と呼ぶべき酒が「廣戸川 特別純米」である。120点の酒を造って翌年60点になるのではなく、常に85点くらいの高品質の酒をブレることなく造り続けていくこと。これが祐行さんの目指す酒造りであり、その精神が最も反映されているのが「廣戸川 特別純米」といえるだろう。
まるで1曲のスタンダードナンバーが歌い方やアレンジによって少しずつ変化していくように、1本の酒が祐行さんの年齢や経験値とともに育っていくのだ。
地元の農家と協力しながら生産する天栄産の酒米も積極的に取り入れ、より付加価値の高い酒造りを目指す。2019年には田んぼだった土地を利用して、アルコール度数や酸度、アミノ酸値の測定ができる分析室と、効率的に瓶詰できる設備を整えた工場も新たに建てた。「機械化できる部分はしていきますが、あくまでも自分たちの頭と手を使うことを基本に、コツコツと奇をてらわない酒を造っていきたいですね」

柱や梁に明治期創業の歴史を感じさせる仕込み蔵。仕込み量は年間約800石(一升瓶換算で年間約8万本)

麹室から出された麹米を冷やし、乾燥させる「出麹」の作業。麹菌が繁殖しすぎないようにするためだ

従来は人の目視などで行っていたアルコール度、日本酒度、酸度、アミノ酸の測定を機械化した分析室を、2017年に導入

火入れや瓶詰の作業を合理化、スピード化する設備も導入。出来上がった酒は鮮度の良い状態で手早く出荷していく

蔵の代名詞といえる銘柄「廣戸川」。左から天栄村産「夢の香」を45%まで磨いた純米大吟醸。落ち着いた吟醸香で料理を引き立たせる特別純米。2012年、全国新酒鑑評会で金賞を受賞した大吟醸

CHANGE_最大の転機は?

震災を機に26歳で杜氏になる決心をしたこと。当初は先代の杜氏の手法をガラッと変えようと意気込んでいましたが、次第に、変えるべきところは変え、昔ながらのやり方のいいところは残しながら酒造りをするようになりました。

PERSON_影響を受けた人は?

福島県内の同世代でがんばっている蔵人の仲間たち。定期的に会ってはお酒を酌み交わし、情報交換をしています。同世代が何をやっているのか、やろうとしているのかは、つねに気になります。

FUTURE_あなたの未来像は?

全国の人に松崎の酒を届けるためには1000石が一つの目安。現状に満足することなく、今の600石から40歳までには1000石にしたい。質を維持しながらその数を造れる蔵としての体力をつけるためにも、さまざまな工程を見直していきたいですね。

名称
松崎酒造
創業
1892(明治25)年
住所
福島県岩瀬郡天栄村大字下松本字要谷47‐1
電話
0248-82-2022
営業時間
9:00 〜 17:00(土日・祝日休み)
公式サイトへ
Text / Shin Sakurai Photo / Atsushi Ishihara